ミュウツーの逆襲 感想
脚本:首藤剛志
絵コンテ:湯山邦彦、横田和
演出:日高政光、井硲清高
作画監督:松原徳弘、山田俊也、浅野文彰、柳田義明、藤森雅也、高橋英吉、福本勝、志村泉
今回はミュウツーの逆襲についての記事。深い考察などを書いていると論文レベルになるので簡単にミュウツーは何がしたかったのかなどを書いていこうと思う。
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ミュウツーと自己の存在意義
まず初めに言っておくとミュウツーの逆襲のテーマは「自己の存在意義」であり、ことあるごとにミュウツーは「私は誰だ」と問い掛けるシーンをみんなよく見掛けると思う。
このテーマから分岐して様々な問題提起が起こり答えに繋がっていく、ミュウツーの逆襲とはそんな物語だ。
「誰かが僕の話をしている。でも何を言ってるの?」「あれって言葉なの、人間の。」「誰?君?」「人間。でもあなたと同じみたいな存在。」「人間?僕も人間?」「お話できるんだから人間かもね、それとも、私がポケモンだったりして。」「人間?ポケモン?なにそれ?僕、どっちなの?」「どっちでもいい。あなたも私も同じみたいなもの。ここには同じようなみんながいるよ。」 #ミュウツーの逆襲( ミュウツー・アイツー )
みんなと言うのはコピーされたフシギダネ、ゼニガメ、ヒトカゲのことを指す。
まだミュウツーが生まれる前の話でミュウツーの意識内での会話である。
本物と偽物、アイツとミュウツー
「私たちはみんなコピー。だからワンじゃなくてツー」「じゃあボクもツー?」「私もアイツー。ほんとの私はアイ。ほんとのアイじゃなくて、アイの2。ううん、もしかしたら私は3。アイスリーかもね。なんか素敵でしょ?だって本物じゃなくったってアイツーだってアイスリーだって、アイフォーだって構わない。私もみんなもミュウツーもちゃんとここにいるんだもん。コレって絶対素敵でしょ?」
ミュウツーは最後の最後まで自己の存在について悩んでいたが、アイツーは違った。開始五分程度で彼女なりの答えを見付けていてアイがアイでいる限り二番目でも三番目でも四番目でも関係なく生きている、存在しているから素敵だと、本物であろうが偽物であろうが関係なく自己存在についての価値を分かっているだ。
涙から繋がる自己存在への問い掛け
「アイ? 答えてアイ? 何があったの?」「なんだか、お別れが近づいたみたい。ミュウツー、生きてね。生きているってきっと楽しいことなんだから」「僕の目から何かが…これは?」「涙」「涙?」「生き物は体が痛いとき以外は涙を流さないってパパが言ってた。悲しみで涙を流すのは人間だけだって。ありがとう。あなたの涙。でも泣かないで。貴方は生きるの。生きているってきっと楽しいことなんだから。」「アイ、とまらないよ涙。どうしたらいいんだ。アイ、答えてよ…」#ミュウツーの逆襲(ミュウツー・アイツー)
ミュウツーの意識内に存在していたアイツー達が消えていくが、この時の会話も後々重要な要素となる。
何と驚くことにミュウツーの逆襲でのアイツーの出番はこれっきりであり、この後はアイツーの姿や声どころか名前すら出てこない。彼女は飽くまでもこの物語のヒント役ということだがこの会話全てがとても重要なのである。
そしてアイツーは生き物は痛い時しか涙を流さず、悲しくて涙を流すのは人間だけだと言う。
だけどミュウツーは人間じゃないのに涙を流している。
人間以外の生き物は悲しみで涙を流さないのに人間でないミュウツーは涙を流している。
ならば自分は一体何者なんだろう。ここから「私は誰だ」という問いに繋がっていくわけだ。
それにしてもアイツーちゃんはこの時点で生まれてもないから生きることの素晴らしさはまだ知らないと思えると泣けてくるな。だからこそ"きっと"なんだろうけど。
自己存在の認識
「完成したぞ。ミュウツーが」「ミュウツー?」「お前のことだ。世界で一番珍しいといわれているポケモンから我々はお前を生み出した。そう、あれが世界で一番珍しいポケモン、ミュウ」「ミュウ、あれが私の親なのか?父なのか?母なのか?」「とも言える。が、そうとも言えない。お前はミュウを元にして更に強く作られた」「誰が?母でもなく父でもなく、ならば神が?神が私を作ったとでもいうのか?」「この世で別の命を作り出せるのは、神と人間だけだ。」「お前達が、人間がこの私を?……… 私は誰だ?ここはどこなんだ?私は何のために生まれたのだ!?」 #ミュウツーの逆襲( フジ博士・ミュウツー )
ここからミュウツーは漸く自分がミュウツーであることを認識し、ミュウを元にして作られたこと、ミュウより強い個体として作られたことを知る。
この情報を元にミュウツーは自己の存在やその価値を認識したがために強さを求めていくことになる。
サカキとミュウツー
その後ミュウツーはサカキと出会う。
ミュウツー「ミュウ!どこにおるんや!偽物のワイの前には現れんのか?姿を見せろ!ワイと勝負せえ!」
サカキ「確かにお前は世界一強いポケモンかもしれんな。その証拠を見せればミュウも放っとかないと思うんやがどや?」
ミュウツー「それでワイの前に現れるんか?」
サカキ「かもしれん。せやけどお前以外にも強い生き物がおる。それはお前みたいな最強ポケモン生み出したワイら人間や。だから手を組もうや」
ミュウツー「それでワイがミュウ倒したらどうなるんや?」
サカキ「お前はミュウを越えた存在になる。世界最強のポケモン爆誕や!」
こんな感じでミュウツーは上手くサカキに言いくるめられて仲間になるがロケット団のゲスさに嫌気が刺してまたもや逃走。こいつ逃走してばっかだな。
そして人間に失望した彼は再び疑問に思い始める。
自分は何のために生きているのかと。サカキはポケモンは人間のために生きていると言ったが、ミュウツーは少なくても自分は人間の為に生きている訳では無いとバッサリ一刀両断。
ミュウツーは人間という愚かな生き物から生まれてきたことを恨み、自分を生み出した人間達への逆襲へと至る。
ミュウツーのその後
まずは城を立ててジョーイを誘拐し、その後は強いトレーナー達に手紙を出して城へ招待。
その際に嵐を起こすことでトレーナー厳選をしていたとのこと。
ポケモンがトレーナー厳選するって何か新しいな。
サトシ達のところにも当然手紙は届いておりこの時点でサトシのジムバッジはサカキがミュウツーに逃げられた後であることから8つ集めて以降、またタケシが離脱してないことからオレンジ諸島以前ということが分かる。
そしてミュウツーはトレーナー達のポケモンを無理矢理強奪しコピーポケモンを量産。
凶悪ポケモンギャラドスであろうと無傷で倒すミュウツーの姿を圧巻でしたね。
「一度は人間と一緒にあろうと思った。だが私は失望した。人間はポケモンに劣る最低の生きものだ。人間のように弱くてひどい生き物が支配していたらダメになる。」「じゃあお前のようなポケモンがこの星を支配するってのか?」「ポケモンもだめだ。なぜなら、この星を人間に支配させてしまった。人間のために生きているポケモンさえいる。」#ミュウツーの逆襲( ミュウツー・タケシ )
この台詞の通りミュウツーは自分のことを人間でもポケモンでもない者として認識しており、人間でもポケモンでもこの世界を支配するには相応しくない。両者に当てはまらず尚且つ強い力を持っている彼こそがこの世界を支配するに相応しいと考えているようだ。
つまり人間が支配するこの世界を壊すのが目的の一つである。
この際にミュウツーは「人間達、命までは取ろうとは言わない。さっさと帰るがいい、あの嵐の中を帰れるとしたらな」と言うがこれはポケモンが居なければ何も出来ない人間に対する皮肉で人間の弱さに対する言及でもある。
分かりやすく言うなら人間にこの世界を支配する力などなく、相応しくもないということ。
本物とコピーの戦い
ミュウツーはコピーポケモンは本物よりも強くしたと主張する一方で突如現れたミュウは本物は"本物"だ。技など使わず、体と体でぶつかれば、本物はコピーに負けないと主張。
ここからミュウツーの作ったコピー産のポケモンと本物のポケモンたちの戦いになる。
「なんなのこの戦い…本物だってコピーだって、今は生きている」「造られたといっても、この世に生きている生き物…」「本物とコピー、でも生き物同士、勝ち負けがあるわけ … 」 #ミュウツーの逆襲( ジョーイさん・タケシ・カスミ)
本物であるか偽物であるか関係ない。生きていればそれでいいと考えているトレーナー達はこの争いの無意味さに戸惑ってしまう。
そしてこの戦いでニャースだけは争っていなかったがニャースは人間の言葉を話せ、マドンニャちゃんの為に人間になろうとしたポケモンであるからジョーイさん同様の考え方を持ち自己存在の証明の為の戦いが如何に無益であるかを知っているのだ。
サトシはなぜ石化したのか?
ピカチュウとコピーピカチュウが殴り合い涙を流す。
タケシはミュウとミュウツーが戦いを終わらせなければ他のポケモンも戦いを終わらせることは無いと言い、サトシは傷だらけのみんなを見てここ戦いを終わらせようと二匹の仲裁に入ろうとミュウとミュウツーの攻撃に割って入ってしまいます。
その結果が画像の通り、石化。動きません。
ここで二匹の攻撃を食らってサトシがダメージを受けたのではなくなぜ石化してしまったかと言うと首藤さんからのコラムを引用させていただきます。
ただ、無意味で悲惨な戦いを目の当たりにして、体が動いてしまったのだ。
「やめろ!」意識したのではなく、サトシはそう叫び、体が動いてしまったのだ。 ミュウとミュウツー戦いの間に入って、双方の攻撃を浴びてしまい倒れたサトシは、死ぬのではなく石化して動けなくなってしまう。ゲームであろうと競技であろうといままでバトルを肯定してきたサトシは、無意識でバトルを否定してしまった。サトシの行動は矛盾している。だから動けない。しゃべれない。石になるしかない。
ポケモンを戦わせるトレーナーがポケモン同士の戦いを止めさせようとした。サトシはトレーナーの在り方を無意識に否定しまったのだ。
彼の行動はポケモントレーナーとして矛盾している=だから動けない、喋れない=石になったというもの。
人間はポケモンを戦わせ金儲けに使っているゲスな生き物と認識していたミュウツーもさすがに驚くレベル。
そしてなぜサトシの石化は解けたのか?
結果的に言えばサトシの石化はポケモンたちの涙が集まり解ける。
アイは生き物が涙を流すだけは痛い時だけ、悲しみで涙を流すのは人間だけと言っていました、この場にいるポケモン達は痛みではなく悲しみで涙を流していた。
人間じゃなくてポケモンも悲しむ生き物である事の証明であり、またサトシが石化が解けた事で生きることの素晴らしさを伝えている。
先程のジョーイさんのセリフである「本物だってコピーだって今は生きている」というセリフもアイの「ミュウツー、生きてね。生きているってきっと楽しいことなんだから」に通ずるところがある。
なぜサトシの石化が解けた問題は首藤ファンの間では色々と考察されていましたがポケモン達の涙が解いた説、アイが解いた説など他にも色々とあったりする。
アイが消えるシーンとポケモン達の涙がサトシに集まるシーンは確かに似ている。
そしてその様子を見たミュウツーはポケモンも悲しみで涙を流すことが出来ることが分かり、この作品のテーマであるミュウツーの自己の存在意義、果たして自分はポケモンなのか人間なのかずっと考えていたがここで答えを出す。
ポケモンは本物でもコピーでも悲しみで涙を流すことの出来る生き物でありつまり自分達は人間でも生き物でもない"ポケモン"として生まれ育ってきたのだとようやく自己の存在を認識。そしてコピーでも本物でも関係なく生きていることは素晴らしいことだと言うことに納得してその場から去って行った。
最後に
実はこのミュウツーの逆襲あとは数倍は語れるところがあるんですけどどのようなテーマ性があるのか簡潔に書きたかったのでここで終わりにしておく。
本当に色々考えられている作品で20年以上たった今でもファンの間では様々な考察が飛び交うポケモン映画史上一番の名作だと俺個人としては思っている。
またミュウツーの逆襲を観る機会があれば一つ一つのセリフから登場人物の心情などを考えながら観るのも面白いのでオススメしておく。